終業式もいつの間にか終わり、バイバイの声が交う教室。 今日は、いつも一緒に帰ってる子が休みだ。……一人で帰るか。 そう思って教室を出ようとすると、 「千葉、」 男の声にあたしはゆっくりと振り向く。あたしの真後ろには、光がいた。 胃がぎゅっと狭くなり、痛くなる。 どうしたの、すら言えないほどあたしは光の"千葉、"という言葉に動揺していた。 光は真剣な表情をしていて、それ故にあたしの心臓は早く働く。 「良いお年を、」 光はそれだけ言うと、また違うクラスメイトにあたしに掛けた言葉と同じ言葉を言った。 ……どうやら、皆に言っているらしい。 "普通"を装う。今、変な顔してないよね。顔真っ赤になってないよね。 にやけてないよね。焦ってないよね。今、"普通"だよね? 自分の心臓の音が鮮明に聞こえた。 たった一言。だけど、今のあたしにとっては、"たった"じゃなかった。 皆に言ってる言葉。だけど、だけど、だけど、だけど、だけど。"皆と同じ"を否定したいあたし。 きっと、やっぱり、――ううん絶対、あたし、光が"幼馴染"であってほしいんだよ。 階段を降りながら、あたしの中に引っかかっていた"何か"は、すうっととれていった。 でも。きっとまだ。何かやらなきゃいけない。あたしは、決着をつけなきゃいけない事がある。 脳裏に、麻川さんの泣く姿が浮かんだ。 冬休みはあっという間に過ぎてゆく。昼まで寝て、メールして、年賀状を印刷して、書いて、 深夜まで勉強。光から貰ったドリルも、後何ページかで終わる。終わってしまう。 そういえば、今日はクリスマスイブだったっけ。ああ、だから隣の家はぴかぴか輝いていたんだ。 机に突っ伏す。明日は莉子と麻川さんとクリスマスパーティーを開く。 何だか気が乗らない。あたしは頬をぺちぺちと叩く。 午前0時までには年賀状を書き終えるぞ、と目標を立ててあたしはまた作業し始める。 麻川さんへのメッセージを何書くか迷って、頭が痛くなった。 "あけましておめでとうございます! もう大学生ですなっ、ほんとに高校生活は楽しかったなあ… 同じ大学だから一緒に頑張ろうね★ 今年も去年以上によろしく!寒いので体にも気をつけて下さい('ω`) 彼氏ともお幸せに〜笑 1月1日" 書き終わった後に、ひとつ溜め息をつく。 最後の文章を書くのにどれだけ躊躇ったか。くっきりとついた、消して書き直した跡がむなしい。 悪いのはあたし。だから、嫌な思いをするのはあたし。それが当たり前。 決着をつけなければならない事、 ←BACK NEXT→ |