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その次の日だった。あたしは麻川さんと顔を合わせるのが辛くて、莉子と麻川さんが喋っている中に入り込むのもできなかった。 なんでもないはずなのに溜息が零れて、麻川さんが笑うたびにあたしはうつむいた。 気持ちが先輩の方ばかりいって、それ以外考えられなくなって、莉子のあたしの名前を呼ぶ声に気付いたのは、 莉子いわく5度目だった。 どうしたの? と聞かれたけれど、なんでもないよ、と愛想笑いすることでしか返せなかった。 だって、それは。ケータイの画面に映し出された、先輩からのメール。 "会うの週1にしよう。毎週水曜日ね。返信不可" やっと会えた、昨日。とっても嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。 ――だけど麻川さんが来て、あんなことになって、不安で胸がいっぱいになって。 だから、だからせめて早く、会いたいって。もっと会いたいって。そう思ったのに。 週1なんて。今まで週5回も会っていたのに。 先輩、先輩はあたしのこともう、嫌いになっちゃったんですか? それならもう、メールなんかしないで下さい、あなたのメール、保存してしまうから……。 「あれ、今日、早いんだな」 光の声に顔を上げる。あ、と呟くあたし。いつの間にかもう公園に着いていた。 いつものように光はベンチに座っていた。光と目が合って理由も分からないほどに、胸が痛くなる。 「うん……もう、そろそろ、ね……勉強しなきゃだし。もう来週から冬休みだし」 しばらくの沈黙。気まずい空気が2人の間に流れる。どうにかしなきゃって、そう思うのに。 「今日お前、何か、変だよ」 光が眉間に皺を寄せて、あたしをじろじろ見ながら言った。 え? と作り笑いして、あたしは首を傾げる。 作り笑いしたいわけじゃない。だけど、顔が引きつってしまう。 あたしは光に背を向けた。どうか、気付かないで。もう放っといて。あたしなんかに構わないで。 「そ、そーかな? 全然元気もりもりだけど? あっはは、光も変な勘違いするようになっちゃってー」 乾いたあはは、と言うあたしの笑い声だけが響く。しん、とした公園に虚しく響く笑い声。 どんどん小さくなっていくあたしの、声。 「……変だよ、やっぱり」 光はこっちをじろじろ見てくる。真剣な表情だ。なんでそんな。なんでそんな透き通った瞳で こっちを見るの? ……あたしの気持ちぐらい……、。 胸の中でぷつん、となにかが切れた音がした。 「……ひ、光だって」 光の視線が痛い。冷たい風がいたずらに2人の間を通っていく。渇いた喉に、唾を流し込んだ。 「光だって、昨日、いなかったじゃん……、」 あれ、おかしいな、いないのなんて当たり前じゃん。あたし、なに、言ってるんだろう。 こんなこと言うはずじゃなかったのに、なんであたし、 本当に伝えたいこと。 ←BACK NEXT→ |