「ねえ、ここのクレープ食べ」
「いらない」 行きつけのクレープ屋さんを指差していっても、シュンは即答する。 シュンが大好きだったクレープ屋さんなのに。いっつも帰りに3人でここに来て、 金がないぼくたち3人はじゃんけんしておごる人を決めてたけど、でもほとんど負けるのはぼくで、 そんなぼくに気を遣っていっつもヒカルとシュンはぼくにおごってくれたっけ。 ああもう、なんでこんな。なんでぼくがこんな気遣わなきゃいけないんだよ。 ヒカルも、シュンも、いつまで反抗期なんだよって! とうとう我慢ができなくなって、 「っ……シュンのあほう!」 ぼくはシュンを突き飛ばした。シュンはよろついた。力なんて入れてないのに、 シュンは道路に倒れ込んだ。ちょ、ちょっと……! ぼくは申し訳なくなって、慌てて座り込んだ。 鞄から色んな物が零れ落ちていて、その中に女物の高価そうなブランドの財布がある事に気付く。 シュンがぼくの視線に気づいて急いでそれを隠す。 「ちょっ、シュン、それ……」 シュンは何事も無いように起き上がり、無言で物を直し始める。 「シュン、また、笹川さん……?」 「……財布無くしたらしいから、買ったんだけどさ。今日はなんかナナ、教室から出てこなくて。 だから渡せなかった。……別にハルキには。関係、ないから」 シュンは言いにくそうに、呟いた。 そんなシュンの一途さが痛いほど伝わってきて、言いたい言葉がどうしても言えない。 笹川さんはよく教室から出てこない時がある。"今日は嫌だ、行きたくない"と駄々をこねる笹川さんを 一生懸命引っ張り出そうとするシュンを何度も見た事があるのは、ぼくだけじゃない。 挙句の果てに泣いてしまう笹川さんの事を、シュンは本当に愛してるんだ。だけどそれじゃ駄目なんだよ、シュン。 シュンのために言わなくちゃ、なのに言えない、言えない――……。 「ごめん俺、新しいバイト始めたんだわ」 「……どこで?」 「駅前の焼肉屋だからさ、また彼女とでも来いよ。ってかもう帰んなきゃ。ごめんハルキ、またな」 シュンは立ち上がって歩き始めた。バイト広告雑誌の切り取られた紙がぼくの足元に 寂しそうに落ちていた。ぼくはそれを拾って、シュンの背中をただ見つめていた。 ごめんねシュン、だからシュン、お願いだから目、覚まして――…… お願いだから、(弱虫の祈り) ←BACK NEXT→ |