それから1時間ほどしてふらふらと歩くヤヨイの耳に入ったメロディー。
"いつか、人を睨んで甘えて生きてた季節に、お別れしなきゃ" それはヒカルが大好きだといっていたバンドの代表曲で、 ヤヨイはそれを小さく口ずさみながら歩いた。 頭の中に浮かぶのはヒカルの事ばかりで、ヤヨイは音が聞こえなくなるとため息をついた。 「……宮崎くん、」 夜、ぼくのケータイは青山さんからメールを受信した。 "なにか怒らせる事してしまっていたらごめんなさい。また遊びたいです" 青山さんはなにもやってないのに、酷く胸に響いた。ぼく、酷い奴だ。 放って帰るなんて最低だ。だけど、だけど――……。 次の日だった。 「俺、向井とはやっぱり付き合えねえ」 朝、いつもみたいに向井さんが教室のドアのところでヒカルを呼んでいて、 向井さんの方に行ったかと思えばその直後にヒカルが向井さんに吐いた言葉。 ぼくはシュンがいないので1人でびくびくそれを見ていた。 視線をびっちり合わす事は怖くて、ちらちらと見ながら筆箱(ちなみに ぼくとヒカルとシュンでおそろいの筆箱だ、シュンの筆箱には笹川さんとお揃いだという ディズニーのキーホルダーが付いている)をいじったりして。 「なんで?」 「……好きじゃないから」 「じゃあこれから好きにならせてみせるよ」 「無理だって」 「そんなのわかんないじゃん」 どんどん大きくなっていく2人の声。教室の空気が張り詰める。 「……とにかくもう、俺にまとわりつくのやめてくんないかな」 「――……諦めろ、てこと?」 ヒカルが頷く。緊張が高まる。 向井さんはうつむいて、数秒床とヒカルで視線を迷わせてから呟いた。 ヒカルの心臓も、2人の会話を聞く人たちの心臓もばくばくと大きな音を鳴らしていた。 「じゃあ、分かった。諦めるからさ……」ヒカルがうつむいた顔を上げる。 「ちゅーしてよ」 こうするしかないんだ。 ←BACK NEXT→ |