「なに来てんだか……」
ヒカルはとたんに馬鹿らしくなって、溜め息をついてUターンして帰ろうとすると、 「やっと来てくれたね」 「え……」 振り返ると、ヤヨイが木と木の間からひょっこり顔を出していた。 てっきりもう帰ったと思っていたのに。予想外の事にヒカルは反応できなかった。 それでもヒカルの心臓はばくばくと動いていて(なんでいるんだよ、 いないって思ったから来たのに、なんでここまで待ってたんだよこいつ、馬鹿じゃねーの、 馬鹿じゃねーの)。 「お前、なんでいんの……今何時か、分かってんの」 「なんでって、今日はデートの日でしょ? ずっと待ってたんだよ」 声が裏返るヒカルを、にかっと無邪気に笑って見るヤヨイ。ヤヨイは立ち上がってヒカルに近づく。 ヒカルはその間もずっと目を丸くしてヤヨイを見ている。 「お前……ずっといたの」 「うん、ちょっとだけ寝ちゃったけど」 ヤヨイは小さな手でヒカルの手を握る。ヒカルの体がびくん、と反応した。 「ちょっと遅くなったけど許してあげる。デートは今からだよ」 と、ヤヨイがヒカルを引っ張って歩こう、としたら。 「あ――っ!」 ヒカルが小さな声を出し、ヤヨイが突然前屈みに、崩れるようにふらっと倒れた。 「ちょっ、向井!」 ヒカルがヤヨイの体を支え、手首をつかんだ。 「……大丈夫だよ、嘘だって嘘、冗談だよ」 ヤヨイはへらへら笑ってヒカルから手を離しゆっくり立ち上がった。 が、ヤヨイの体には力が入らず、またよろけてヒカルの体にもたれかかる。 ヒカルは唾を飲み込んでヤヨイを心配した目で見つめた。 「ちょ、お前ほんと……」 「大丈夫だから! だからデートしよ……ね?」 ヤヨイがヒカルの服の裾を小さい手でぎゅっと握る。 それが切なくて、でもどうしようもなくって、ヒカルは優しく、ヤヨイの手を包んだ。 「……馬鹿だなお前」 「え?」 ヒカルはその場に座り込みヤヨイの体を起こした。2人は向き合う。 ヤヨイは純粋で、綺麗で、まっすぐな瞳でヒカルを見つめた。 「俺、告白断ったんだよ」 ヤヨイが口を開けて目を真丸く開けて、固まった。ヒカルはヤヨイから目をそらして立ち上がる。 「じゃあ、俺帰るわ」 「え、……待ってよ、デートは!」 「帰って寝ろ、向井は」 それだけいうと、ヒカルは帰って行った。 取り残されたヤヨイはぺたんと座り込んで、ヒカルの背中を見つめていた。臆病な、ヒカルの背中を。 (ほんとうは待っていてほしいと、期待していた) ←BACK NEXT→ |