次の日。麻川さんは学校に来ていた。すれ違うのが嫌だ。目を合わせるのが嫌だ。頭が痛くなる。 なにも言えないあたしの横で、莉子が大丈夫? どうしたの? と聞くと、麻川さんは笑って応えていた。 「ズル休み」 冗談っぽく、笑って応えていたのを、莉子は適当に流していた。 ――きっと。きっと、先輩に会っていたんだって。そんな気がしてたまらなかった。 放課後。ケータイを確認。カラオケ屋からのメールしか来ていなかった。 麻川さんは学校に来てたから、だいじょうぶ。なにも心配することなんてない。 なにも邪魔するものなんてない。会えるんだ。昨日あった罪悪感のかたまりは もうなくなっていて、あたしは全てのことを放り投げている気分だった。 そんな自分の弱さを笑いながらあたしはインターホンを鳴らす。 「はい」 「さくらですっ」高くなる声。ドキドキと高鳴る胸。――先輩。ドアが開けられる。先輩。先輩。 「先輩!」 あたしは思いっきり笑顔で先輩に抱きついた。開けっ放しの小さな門が風に揺れていた。 あたしは先輩から離れて、先輩を見る。 「どしたの? 今日は凄い、……良い事でもあった?」先輩が笑う。 「ありましたっ!」 あたしは思いっきり笑って、大きく頷いた。そっか、と先輩が頭を撫でてくる。そのぬくもりも、とても愛しい。 「なに?」 「……先輩に会えた事です!」 先輩、とっても、とっても嬉しいです。ついつい顔がにやけてしまうぐらい。 先輩は少しだけ驚いた顔をして、それから笑った。 「とりあえず家、入ろう?」 「はいっ」 久しぶりに家に入る。先輩の香りも、全てが久しぶりで。 帰るまでの時間、とびっきり楽しくしようと。そう、思った。決めてきた話題を先輩に振る。 「先輩あたし、先輩と同じ大学入れそうです!」 「あ、ほんと? 良かった!」 ホットカーペットの上に2人座る。はい、良かったです、と呟く。にやけが止まらなかった。 こんな時間が、ずっとずっと続けば良い。ありきたりな言葉でしか表現できなくても先輩の隣が居心地良かった。 幸せを確かめるようにもう一度先輩の名前を呼んだ。正しくは、呼ぼうとした。 「せんぱ――……」 「先輩!」 あたしの言葉は、誰かがドアを開ける音と、先輩の名前を呼ぶ声に遮られた。 好きな気持ちはずっと、いつまでも。 ←BACK NEXT→ |