浮気をしました。




 月曜日。いつもより早めに起きた朝。ふと目に入った鏡の前で笑う。 ――先輩に会える。今日こそ、先輩に会える。 学校に駆け出す。教室に着くと、莉子がこっちに来た。

「今日知佳休みなんだってー」

 びくん、と手足が震えた。休み……。麻川さんの名前を聞くと反応してしまう。 そうなんだ、と軽く交わして、あたしは席に着く。
 提出するノートが鞄から見えた。……久しぶりだな、宿題、自分でやったのって。

 そして、放課後になる。麻川さんは熱が出たらしい。ふと、金曜日のことを思い出す。

"浮気、してる……みたい"

 なにか、引っ掛かった。もしかして、先輩の家に行ってるんじゃないかって思った。 不安になれば、ぬくもりを求める。あたしがそうだったように、麻川さんも……。
 いつもは喜んで先輩の家に駆けるあたしだけど、今日は行けなかった。
 先輩には申し訳ないけれど、ちょっと前に毎日行くって言ったけれど…… "抱き合ってた"麻川さんの言葉が、あたしの胸を締め付けていた。

 けっきょく先輩の家に行く気分にはなれなくて、なんとなく公園のブランコを漕いでいた。 前不安だった自分がウソみたいに、なんだか今日はすごく楽な気持ちでいれた。 先輩に怒られるだなんてことはなにも考えてなくて、どこか安心しながらあたしはそこにいた。
 溜め息をつくとあっという間に白く変わって真っ赤になった冷たい手の感覚は無くなっていた。

「あれ、」

 あたしは顔を上げる。光が驚いた顔をして立っていた。
 なんだか気恥ずかしくて、視線を迷わすあたし。光はぷっ、と笑って向い側のベンチに座った。

「今日はえらく早いのな」
「……うるさいな、」
 素っ気無くあたしは言う。冷たい風が吹く。

「さむ、」
 思わず呟くと、光が立ち上がったのが分かった。


「マフラー、」
 光が近くの後ろでぼそっと呟いたのが聞こえて、あたしは振り向く。
 それより前に首元にぬくもりが感じられた。ゆらゆら揺れる"水色"。 あたしの首には、水色のマフラーが掛けられていた。
 反応に途惑って、あたしは驚きを隠せない表情で光を見たらうつむいていて、表情は見えなかった。

「これ……ひ、光?」
 戸惑い気味に疑問を投げかける。光は黙ったままだ。




かじかんだの居場所




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