じゃあ早速やるぞ、と光がいった後からは、頭の中がごちゃごちゃだった。 意味の分からない数式を覚えさせられて、それから解き方とか理由とかをずらずらと言われて。 でも、分からなかったわけじゃない。なんとなく。なんとなくだけど、分かった気がする。 くそう、光に教えてもらって分かったなんて、そんなの、……嫌だ。 「はい、じゃあこれ毎日最低2ページね」 光はそう言ってどこからか出したドリルを渡してきた。 「うっげー」 あたしが嫌そうな顔をすると、光ははいはいと適当に流した。 ……待った、なんで光が本当の家庭教師みたいにドリルとか渡してくるのよ。 「このドリルくれんの?」 「うん」 「いいの?」 「うん」 ……なんだか気まずい雰囲気になる。光はひょうひょうとした顔でこっちを見ている。って、いやいやいやいや。 「違う違う違う、そーじゃなくてさ。なんでこのドリル持ってるのってこと」 あたしが聞くと、光はああそっちねと呟いて、立ち上がった。 「いやさー買ったんだけどね? おれっちにはレベルが低すぎてさー。 全く手ぇ付けずにいて。まあでもお前にはこれ必要だろ? だから優しい俺様はお前に提供してやろうと」 "俺様"だとか"おれっち"だとか一人称をころころ変える馬鹿オーラむんむんの光がにやりと笑う。 「なにそれ、つまりそれってあたしのレベルが低いってこと言いたいわけ」 「べっつに?」 にやにや笑ってくる光を睨むと、あたしも立ち上がる。 光は勉強道具を鞄にしまい、時計を見た。光と勉強を始めてからもう1時間経っていた。 「感謝しろよ、」光が言う。あたしは鼻で笑ってから、 「ありがとうございます、光せんせー」 それから光が帰ってから、あたしは早速ドリルに取り掛かった。 きっと高校3年生の勉強ではない部分もあるのだろうけれど、あたしにはちょうどよかった。 2ページが終わり、あたしは伸びをする。 ぎゅっと目を瞑り、目を開けた時に視界に入ったケータイ。あたしはゆっくりとそれを取る。 やっぱり手はいつの間にかアドレス帳の先輩の欄まで操作していた。 "嘘じゃない" 何度も、繰り返される。先輩、会いたい。ドリルをひたすらやってる時だけ、先輩を思わずにいられた。 光の馬鹿みたいな言葉だけが思い浮かんだ。でも、やっぱり。 負けず嫌いで悪かったね! ←BACK NEXT→ |