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あたしは筆箱からシャーペンを出した。唇を噛み、勉強モードに切り替える。 「じゃあここな、」 光が数学のワークを勝手に開く。同じクラスなこともあって、光の行動は早かった。 「……げ」 あたしは眉を潜める。うわ、全然わかんない……。 その素振りに気付いたのか、光が鼻で笑った。あたしは顔を上げて光を見る。 「こんなのもわかんねーとか馬鹿じゃねーか?」 その言葉にイラッと来て、あたしは分かります! と言ってもう1度問題と睨めっこをした。 ……そんなの知らないんですけど……。結論はやっぱりそれに至る。 「お前何大入るんだっけ」 「海都大学」 そう言うと、光はぷっと吹き出した。 「何よ」 「いやいや、頑張って下さい」 「うわムカつくその言い方! どーいう意味よ!」 光はにやにやしながらこっちを見る。口を尖らせながらあたしは光を睨んだ。 「現時点でお前にはその大学入れるほどの力が無いってこと、」 う、とあたしは言葉に詰まる。海都大学は先輩の大学だ。一緒に入りたい、ただ、それだけだった。 確かにあたしは馬鹿だ。授業中だって寝るかボーっとしてるか シャーペン回しの研究してるかだし、そのせいで授業に追いつけなくて宿題も捗らない。 ……だからって。そうもきっぱりはっきり言われると自信を無くす。溜め息を零すと光は驚いた顔をした。 「なにいきなり自信無くしてんだよ」 「そりゃーそんだけきっぱり言われたらショックでしょうよ」 「俺のせいかよ」 あたしはうつむきながら、小さく頷く。しばらくの沈黙。大学、かあ……。 そろそろ、とは思ってたけど、やっぱり、いろいろ大変なんだなあ……。机の上に顔を置いて溜息をつく。 「現時点では、っていってんじゃん」 光がぽつりと言った。あたしはえ? と聞き返して、顔を上げる。 「今から俺様とやれば受かるかもしんねーよ。俺様の言う通りにやったらな?」 光は身を乗り出して言った。にや、と笑いながら。 「俺様って……なにそれ、」 「いいからいいから。落ち込むなって。お前ならできる!」 光が励ます、という異常事態にあたしは驚く。なんだか恥ずかしくて少しだけ目を逸らした。 「っつーか、俺様ならお前みたいな馬鹿でも天才にできる、みたいな?」 光は笑ったから、あたしも馬鹿みたい、とくすりと笑った。 素直じゃない、(あんたも、あたしも)。 ←BACK NEXT→ |