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いつものように公園の前を通ると、そこに光はいなかった。なにかあったのだろうか。 でも、家まで行くとかなんて恥ずかしい。……いつからいってないっけ。光の家。 あたしはもやもやしながら家に帰った。 鍵を鞄から出して、鍵穴に入れる。がちゃりと音がして、あたしはドアノブを引く。 ……ん? あれ? 開かない。あれ、開けたはずなのに。 押してみるけど、開かない。あたしはもう1度鍵を鍵穴に入れ、回す。ドアノブを引くと、 「開いた……」 お母さん帰って来てた? それとも、誰か、いる? 恐る恐る靴を脱ぎ、部屋に入る。 お母さんじゃない。のん気にこたつに入ってるその"誰か"の背中は男のようだった。 先輩? そんな想いが頭を過ぎるけれど、きっと、いや絶対先輩はそんなことしないとあたしが1番分かっていた。 音を立てずにそいつに近づく。 「あ、おかえり」 そいつは普通に、そこがいるのが当たり前のように笑って、振り向いた。 「光……なんであんたいるの」 「家、追い出されちゃった」 光は首を傾げて、笑った。あたしは、心の底から不安だったさっきの気持ちを返して欲しいと願う。 「つーか勝手に家入らないでくれるかな」 「今日は勉強を教えに来たのもあるし、そんなにカリカリするなって」 光はそう言って鞄から勉強道具を取り出した。 あたしはジャンバーをハンガーに掛けて、光と向かい側に座り、こたつに足を入れた。 光は幼馴染だから、とあたしの家の合鍵を持っている。はあ、と溜め息をつくとあたしは光を見た。 光と目が合う。光はくりくりした目でこっちを見て来た。 「お前も勉強道具出せよ」 「やだね、しないもん」 「んだと可愛くないやつだなおまえってやつはほんとに」 光はずらずらと言葉を並べると、あたしの鞄を引っ張った。あたしは奪われないように鞄を引っ張る。 勉強を教えに来た? どういうこと? そんなことを考えているうちに、 光がスキあり! と大きな声を出して、あっという間に鞄を奪った。 こたつの上で繰り広げられた勝負は、光が勝った。光は勉強道具を出すと、こたつの上に出した。 「はい。……一緒にやろ?」 光の言葉は、なぜか、少しだけ頭の中で何度か繰り返されて、響いた。 きっと、優しくされると、先輩を思い出してしまうからだ。 あんたの前では可愛くなくていいもん! ←BACK NEXT→ |