浮気をしました。




「嘘ばっかり……」

 もう1度、確かめるように言った。黙っていた先輩の、口を開く音が聞こえた。

「嘘じゃない」

 なんだかとても真剣な口調のような気がして。どくん、とあたしの胸が反応する。 期待しちゃ駄目、と高鳴る胸を抑える。



「嘘じゃない。――俺は、さくらが好きだよ、世界一」



 いつもの言葉。いつもと同じ帰り際の言葉。そう言ってあたしを安心させるいつもの言葉。 期待しちゃ駄目。期待したって、どうもならない。寂しさだけが返ってくる。 そう、分かっているのに。――ドキドキが止まらなかった。

「さくら、聞いてる?」

 先輩の声が聞こえた。あたしは小さく頷いて、うん、と呟く。 ぼろぼろと落ちていく涙のたどり着く先を、ただ、見つめていた。

「俺がいるから。だから、心配しないで良いよ。……大丈夫、」

 優しい声。それだけで、あたしは頭を撫でられてるみたいに、気持ちが穏やかになった。 先輩は、それだけあたしの気持ちを操っている。
「分かった?」あたしは、涙を拭って大きくうん、と返す。

「ありがとうございます……ありがとう、」
 なきながら、つまりながら、言葉にする。先輩のうん、と言う声が耳に届いた。 じゃあもう電話を切ろうかと、そういう雰囲気に運ばせようとすると先輩が言った。

「あ、もうケータイは使っちゃ駄目だよ」

 先輩は釘を刺して、すぐに電話を切った。ぷつ、と言う切れる音の後に ぷーぷー、と寂しい音が響いていた。あたしはなんだか取り残されたようだった。
 涙を手の甲で拭い、家まで歩く。先輩。期待なんかする方が馬鹿なんだって分かっているけれど、それでも、

"その時はさくらを彼女にするよ"
"嘘じゃない"
"俺がいるから"
"大丈夫"

 1つ1つの先輩の言葉が、頭の中で何度もリピートされる。あたしはそれを追いかける。
 ――それでも、少しだけ、信じてみても、いいですか?




期待するのは馬鹿な事、と言えばそれでわってしまうの?




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