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「……さい、……ごめんなさい……」 声が震えていた。 「まあいいけどさ、」 先輩の冷たい言葉が胸に突き刺さる。明らかにどうでもよさそうな口調。 「それで、なんかあったの?」 先輩に聞かれて、また切なさがこみ上げる。涙だけ溢れて、切ない気持ちは消えなかった。 「……はい」 小さく答える。先輩の表情は見られないけれど、きっと鬱陶しい、と明らかに分かる顔をしているんだと思う。 「浮気……バレたんです、」 先輩の罵声が飛んで来るんじゃないかとおどおどしながら声に出す。 震えていた。言葉にすればするほど、寂しさがあたしを襲う。なんて情けないやつなんだ、あたしは。 「麻川さん、浮気してるって分かってて……、 あたしが浮気相手だってことは分かってないみたい、なんですけど……」 襲ってきた寂しさに耐え切れなくなって、涙がぽろぽろと零れ落ちる。 「もし……もし、先輩、が、麻川さんになにか言われたら……」 途切れ途切れの言葉。先輩はまだなにもいわず、黙っている。その沈黙が怖い。 「そしたら……、ごめんなさい……ごめんなさい!」 謝った同時に涙が頬から落ちて、地面に溶け込んだ。沈黙が流れた。どくどくと高鳴る心臓。 冷たく突き放される。きっと、"じゃあその時は別れよう"と言われる。それか、電話を切られるか。 もう期待なんてしなければよかった。最初からたった少しの可能性だったし、望んだあたしが馬鹿だった。 ぎゅっと、目を瞑る。どんな冷たい言葉でも、傷つかないように。 「……その時は、」 先輩の声が聞こえる。息遣いまでしっかりと、鮮明に聞こえた。まさか。 「その時はさくらを彼女にするよ」 まさか。そんなこと、言うわけ無い。期待なんてしていなかった。 だから嘘なんてつかないでいい。そう、思ったのに。……"彼女"になれるの? あたしが? 頭がぐちゃぐちゃになる。どうせまた冗談でした、とか言うんじゃないのか。 嘘だ嘘だと思いながらちょっとだけ信じてる。ごくりと唾を飲む。"本当ですか"て、聞きたいけれど。 聞けない。嘘だよ、と軽く交わされたら、悲しすぎるから。 「……い、」 あたしは呟いていた。先輩はその声に反応してえ? と返してきた。もう1度、呟く。 「やめてください、……そういうの、……」 どうせ嘘のくせに、いつもそうやって期待ばかりさせて。膨らむのは期待ばかりだった。 先輩に怒鳴られたって愛想つかれたってしかたない、そう覚悟してあたしは言った。 「先輩、……嘘ばっかり……」 少しだけでもいいから、先輩の"ほんと"が欲しかった。 嘘でもやさしさがほしかった、愛のないキスでもうれしかった、それでもやっぱり 一番にほしいのは"ほんと"で、一番にもとめるのは"ほんと"で。 いくら嘘でもいいって、強がってみたって、溢れる涙は止まらなかった。 I want , ←BACK NEXT→ |