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「先輩、せん……せんぱい!」 涙でぐしゃぐしゃになりながら名前を呼ぶ。何度も何度も名前を呼ぶ。 ――心に、穴が開いたみたい。寂しさだけがあたしの気持ちを埋め尽くしている。 もう、もう、先輩とは、会えないの……? ねえ、結末なんてきっと分かっていたけれど、それでもほんとは、運命が覆るのを待ってたの…… ほんとは、麻川さんが諦めてくれるのを、あたしを彼女にしてくれるのを、 心のどこかではいつも期待してて…… "彼女になりたい"真っ白な気持ちで、真っ白な手で、あなたに触れたいの。 そんな言い表せない切ない気持ちだけで溢れかえって、震えながら鞄からケータイを取り出す。 "ケータイは使っちゃ駄目"今まで何度も何度も我慢してきた。 だけどもう駄目だった。不安で胸がはちきれそうだった。涙が止まらなかった。 もう駄目だった。先輩に会いたい。先輩に触れたい。先輩に話したい。 先輩を感じたい。この寂しさを埋めてくれるのは、きっとこの世で1人だけ――流、先輩。 ケータイには、アドレス帳の先輩の欄が画面に映し出されていた。 押しちゃ駄目。駄目、駄目。駄目……そして、気持ちとは裏腹に。 電話は先輩の元へ掛けられていた。ケータイを耳元に持ってくる。コールが鳴る。 先輩、出ないで。そう思いながらほんとうは出て欲しかった。出てくれるのを期待していた。涙が溢れる。 何度もコールが鳴る。出て欲しい。出ないで欲しい。たくさんの気持ちが交錯する。 期待していた。なんだか少しだけ、先輩は優しい言葉を掛けてくれるって思った。 だから、電話しても大丈夫かなって。不安で、不安で、たまらないから。 「さくら?」 先輩の優しい声が耳に届く。また涙が溢れ出す。ひっくひっくと情けない声を出して、あたしは涙を拭う。 「せんぱっ……」 「ケータイ使っちゃ駄目って言ったじゃん」 現実が突きつけられる。もっともな意見だった。冷酷な、判断。"期待していた"? 馬鹿みたい、 なにかに埋もれてほしくない、この気持ちだけは。 ←BACK NEXT→ |