「彼女は見つけたら成敗する。……なーんちゃって」 麻川さんはてへへと笑う。きっと作り笑顔なのだろうけれど、 とても強がっているのだろうけれど、自然に笑ってるみたいだった。 その優しさにつけこむあたしは、なんて最悪なやつなんだと思うとまた胸が痛んだ。 「……まあ浮気現場見つけても、その2人の愛が本気だったら、 あたしにはどうすることもできないけどね」 どくん。また痛みがあたしの体中を襲う。"あたしにはどうする事もできないけどね" きっと、それが本当の愛なんだ。好きな人の幸せを願うのが。 そんなことをいえる麻川さんは、強い。――あたしは? いつだって自分のことばかりじゃないか。 "分かってるけど"そればっかりだったじゃないか。 そんなあたしが、麻川さんを傷つけて、先輩と一緒に幸せになるなんて、ありえない。 「……あ、ごめんね、こんな暗い話しちゃって! ……千葉さんは先輩に言った方が良いと思う?」 いきなりそういわれて、あたしの心臓は今にも爆発してしまいそうだ。 あたしはなにをいえばいいのだろうか。"言わない方が良いと思う"自分勝手な考え。 "言った方が良いと思う"じゃあもう先輩とはあたし、付き合えない…… ぐるぐると考えが回って、ぐちゃぐちゃになる。口を開くあたし。 「……その、先輩、知らないからよく分かんないけど、きっと、……」 喉が渇く。 「きっと、言った方が良いと思うよ」 言ってしまった。言ってしまった。"あたしと先輩の関係を壊せ"と。 麻川さんは驚いた顔をしていた。そして、足を止める。気まずい沈黙の空気が流れていく。 「……そ、だよね、……」 「でもやっぱり麻川さんの判断が大事だと思うよ!」 あたしはとっさにフォローする。麻川さんが困ったような顔をしていたからだ。 でもきっとそれは、逃げてたんだと思う。麻川さんの強さに、甘えていたんだと思う。 判断に任せたら、きっと麻川さんはなにも言わない。きっとそれを、望んでいた。 「そう……、だよね! ありがとう! やっぱり千葉さんって頼りになる! ありがとね! じゃあまた月曜日!」 麻川さんは笑って駆けて行った。"頼りになる"? 誰もがいいそうなごく普通の、ありきたりの言葉を言っただけ。 麻川さんは優しい。麻川さんは強い。あたしなんかと全然違う。だから。涙が出てしまう。 「……ぱい、せんぱい……」 どうしようもなく先輩に会いたくて。先輩の声が聞きたくて。先輩の名前を呼んでしまいます、。 それだけがあたしの生きがいなの ←BACK NEXT→ |