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デート当日。
待ち合わせ時間より45分早く来て、さすがに誰もいないだろうと思っていると。 「なんだ、宮崎くんじゃないんだ」 残念、というばかりに口を尖がらす向井さんの声に驚くぼく。 ベンチの陰に隠れるようにして座り込んでいる向井さんに恐る恐る近づく。 「い、いつからいたの」 「……8時すぎから」 ぼそっと向井さんは言って地面にお絵かきをし始めた。"向井ヤヨイ"と 大きく書く向井さん。 無邪気な向井さんの後姿が、妙に寂しかった。ヒカル、来ないのに。 「分かってるもん、どうせ来ないんでしょ」 「え」 心の内を読まれたみたいでびっくりした。返答に困る。 だから嫌なんだよ。この子なに考えてるか分かんないし……めんどくさい。ややこしい。 早く誰か来てよ。っていうかヒカルが来れば早い話なんじゃんかもう。馬鹿。馬鹿ヒカル。 「宮崎くん。来ないんでしょ?」 向井さんがうつむいてた顔を上げて、こっちを向く。強く、大きな目がぼくの目に映った。 「え、あ、はい……」 強い向井さんの突然の言葉に、ぼくは頷いてしまった。なんで敬語かはぼくも分からない。 とりあえず苦手だ。こういう女子って絶対自分が1番上だとか思ってるタイプだよ、あーほんと嫌いだ。 「でもいい。待ってるから」 また向井さんは土をいじり始めて、ぼくはどうすることもできずベンチに座ってただただ空を見ていた。 空は青いなあ。なんて馬鹿な事を思いながら、青山さんの電話で話した時の言葉を思い出していたら、 そのうち女の子が駆けてくるのが見えて、ぼくは咄嗟に立ちあがった。 「おはよう、遅れちゃった?」 「あ、いやいや全然」 青山さんの私服。グレーの星柄パーカーをはおり、真っ白なサロペットの下に緑色のTシャツを着ている。青いパンプス。 かちゅーしゃをしている青山さんがいつもよりきらきらと輝いて見えて、思わず言葉を失う。 青山さんはしゃがみこんでいる向井さんを見て苦笑いをして、ぼくの方を見て、また向井さんを見た。 「えっと……」 「あ、えっと……向井さん、です」 ぼくが向井さんを紹介すると、向井さんはゆっくりこっちを向いて青山さんをじろじろ見つめた。 青山さんが困りながらも軽く頭を下げて挨拶をする。 「こんにちは」 「ちわ」 向井さんはそれだけいってまた土をいじりはじめた。 「えっとじゃあ……行こっ、か、2人とも」 「あたしここにいる」 「え、なんで」 意外な向井さんの言葉に声が裏返る。 「宮崎くん待つの」 「……ヒカル、来ないよ」 いってしまった。向井さんが泣きそうな眼で睨んできて、しまった、と思った。 「待つの」 「……だから来ないってば、」 「待つの」 ぼくは頑固な向井さんに溜め息をついて、じゃあ行こうと青山さんにいった。 向井さんとぼくを交互に見て途惑う青山さんの目はきらきらに輝いていなくて、少しだけ困っていた。 「いいから行こう」 「え、あ……」 青山さんが途惑っていたけれど、ぼくは早歩きして大きい公園に行く道を辿る。 青山さんも、後ろを時々振り向きながら着いてきた。 「ほんとにいいの?」 「だって向井さん待つっていってたし」 「……可哀相」 その言葉が胸に刺さる。なんだか、自分が悪いみたいだ。ヒカルが悪いのに。 青山さんに失望されたみたいで、胸の中にぐるぐると黒いもやみたいなのが回って、消えなかった。 分かってるつもりだけど、でも、 ←BACK NEXT→ |