アオの迷子。




 シュンは無造作に鞄を置くと、足早に教室を出て行ってしまった。

「俺、ちょっと、出るわ」

 ヒカルが居心地悪そうに、また教室を出て行く。 誰を追いかけたら良いか分からないぼくは、教室の真ん中で突っ立っていた。 そんな時にポケットの中のケータイが動き出し、ぼくは慌ててケータイを取り出す。

「青山さんからだ……!」

 青山さんからのメール。初めてのメールだった。 メアドをゲットしたけれど、ぼくからメールなんて送れなかったのだ。 ぎゅっと目を瞑って力を込め、メールを開くボタンを押した。

"青山です。そういえば、わたしの下の名前教えましたっけ?"
 ただそれだけの文。だけど、ぼくにとっては嬉しすぎるぐらいで。 だいたいもう、なんていうかな。メールが来ること自体が幸せだし。なんつって。
"そういえば聞いてなかった、ぼくは井上ハルキです、ていったっけ?"
 必死に両手でメールを打つ。打ち間違いがないかを念入りにチェックして、送信ボタンを押す。 顔が自然とにやけるのが分かる。……幸せだ!
 そして朝休みが終わりそうになった時、もう1回青山さんからメールが来た。

"青山ユキです! 井上くんのは聞きましたよ、ハルキくんですよね"

 ハルキ、と呼ばれるとメールなのになんだか気恥ずかしくなって、 そんな時幸せそうなシュンが教室に帰ってきた。目は合わなかった。 それから少ししてヒカルも帰ってきて、微妙な雰囲気のまま授業が始まった。
 1時間目が終わって、ヒカルがぼくのところに走って来た。

「ダブルデートする事になったんだけど、行くだろお前」
「ダブルデート!」

 ぼくがびっくりするとヒカルは頭をかいて、(癖らしい)説明し始めた。

「なんかデートするとか向井が言い始めて。んですっぽかすつもりなんだけど、 向井が1人になったら可哀相だろ? だから、お前と青山も一緒にデートして。 そしたら俺がすっぽかしても向井はお前らと一緒にいられる、と」
 最低なプランだね、という言葉を飲んでぼくはいいよ、と頷く。

「週末、○○公園行ってな」
 遊んでばっかいるぼくは、もちろん成績順位は後ろから数えた方が早い。


 放課後(ちなみに、ぼくが朝休みと放課後の説明しかしないのは、 授業中は寝るか本に落書き、という全く退屈な行為しかしてないからだ)。

「シュン一緒に帰ろ」
「今日デートだから」
 シュンは素っ気無く言って手をひらひらした。

「また……」
「ほっとこうぜ、あんなやつ」

 頬を膨らますぼくに、シュンを睨みながらヒカルがぼそっといった。

「学年1の美女と付き合ってるからって、調子のってんじゃねーよ」

 ……ぼくは、シュンとも、ヒカルとも、一緒にいたいのに。こんなのって。 ぼくだけ取り残されてるみたいで、こんなの嫌だ。




取り残されたのは、誰?




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