その頃、シュンはナナの居る教室までナナを迎えに行っていた。
「あ、シュン!」 ナナは男がたくさんいる中からひょっこり出てきて、少しやきもちをやくシュン。 嫉妬に押しつぶされないように、自分はナナの彼氏だと言い聞かせてシュンは深呼吸した。 「そーいや今日デートだったね。朝からシュンと一緒にいられるなんて、あたしスゴイ嬉しい」 ナナは、屈託のない笑顔でそう言った。 「じゃ、行こうか、屋上」 「屋上、開いてないんじゃね」 「じゃあその前の階段のところ」 ナナはそういうと、シュンの手を持ち、引っ張って歩いた。 「……なるべく、人気が無いところが良いの」 ナナの弱々しい声にシュンが恥ずかしくなってるうちに、屋上手前の暗い階段に着いた。 「あのね、シュン。あたしの誕生日、知ってる?」 シュンは首を横に振る。 そっか、とナナが何か考えるように指で唇をいじりながらうつむいた。 「……欲しいの」 「え?」 「アクセサリー。欲しいの」 うつむき加減に、しかも弱い声でいうから、当たり前のようにシュンの頭はその言葉でいっぱいになった。 ナナは固まってるシュンの手を優しく握り、上目遣いでシュンの方を見た。 「もっと女の子らしくなって、もっと可愛くなって、もっとシュンに合うような女の子になりたい。 シュンがあたし以外誰も見られないぐらい、魅力たっぷりの女の子になりたいの、でもあた……」 「俺が買うよ!」 突発的にシュンはそう言っていた。迷いは無かった。 せっかく手に入れたチャンスを、見逃すわけにはいなかいと判断したのだ。 さっきのナナを囲んでいた男子たち……ライバルを思い浮かべると自分にはこれしかないと思ったのだ。 「ほんと!?」 「誕生日、いつ!」 「明日!」 「あ、シュンお帰りー」 やっと教室に帰ってきたシュンに、ぼくは声をかける。 だけどシュンは全く聞いてないのか、ぼーっとした顔で自分の席に着いた。 どしたんだろう、とヒカルに言うとヒカルは首を傾げた。 「シュン?」 何度か名前を呼ぶとやっと気がついたのかゆっくりとシュンがこっちを向いた。 「ど、したの?」 「買わなきゃ、……3万、3万なんてなあ、まあ、大丈夫だよなあ、うん……」 ぼそぼそと呟くシュンの言葉にぼくとヒカルはびっくりして、シュンの肩を揺らす。 「3万!」 「なんで!」 3万なんて……少年誌が、いっぱい買えるぞ、そんな大金。 頭をフル回転させて3万の価値を考えたけどぼくのちっぽけな頭ではそんな事しか思いつかなかった。 「ナナの誕生日なんだ明日」 「……笹川?」 「3万ぐらいのアクセサリーが欲しいってナナ、言ってたから……」 ありえない! アクセサリーなんてビーズで作ったら十分だ! そう思ってぼくとヒカルはシュンを説得させようとするけど、シュンの耳には1つも入っていなくて。 全ての言葉が頭を貫通して逆の耳から零れて出ていってしまっている。そういうのがすぐに分かった。 「買わなきゃ……」 お前の眼に映っていられる時間がほしい ←BACK NEXT→ |