アオの迷子。




 真っ赤なオレンジの空に、3人の笑い声と静かな波の音だけが響いてた。
 線香花火に火をつける。線香花火は5つあって、ぼく以外の2人が2つずつ、ぼくは1つ持った。 ぱちぱちと音を立てて激しく燃える線香花火を見つめながらそのうち、

「……もうあと、少ししか無い、んだな」
 シュンが呟いた言葉。周りはみんな進路だとか騒いでる。勉強だとか言ってる。 経済が不安定だから就職がどうたらとか、あそこの大学食中毒起こしたらしいとか わーわー暗い顔して落ち込んでいる。 他の人たちをかっこ悪いって、そんな風に言ってる場合じゃないって分かってる。 3人が取り残されてるんだ。ぼくらが、置いてかれてるんだって。
 ぼくらが季節に甘えてたいつからか、分かってた。なにも考えないで生きていけるわけない。 それでも、どうしたらいいかなんて分からない。分からないや。
 シュンの線香花火の火種がぽとりと落ちた。それは砂に埋もれていって、なんだか急に寂しくなった。

「なあもしもよ。俺が、歌手になったら、」
 ぼくがヒカルの方を見ると目があって、ヒカルは恥ずかしそうに目をそらした。
「……やっぱりいい、」
 ヒカルはそういって頭をかいた。ヒカルの花火も火種が同じように砂に埋もれてゆく。 ねえヒカル、ぼくはヒカルが羨ましいよ。この感情はきっと一生口にする事はないけれど、ぼくは羨ましいよ。 高校2年生で今しか見えないとかいって将来をあやふやにしてるぼくからしたら、 しっかり夢を持ってるヒカルはきらきら輝いてて、とっても素敵だなって思うんだよ。
 ぼくの手元を見ると、それは勢いを失いながらも確かにまだ燃え続けていて、 そのうちしゅっと音も立てずに火は消えていった。胸の奥が、切なくなった。


 いつもと同じ、朝が始まる。たわいも無い話をする事、5分。
「そいえばヒカル、向井さんは今日来てないの?」
 聞くと、ヒカルは嫌そうな顔をして頭をかいた。

「しらねえ、つか来ないでほしいけ」
「宮崎くん!」
 ヒカルが最後まで言い切らないうちに、向井さんがドアのところからにこにこ笑ってヒカルの名前を呼んだ。

「あ、おれっちも行かなきゃ」
「なんで?」
 シュンが立ち上がるから、ぼくが聞くとシュンはにやりと笑った。

「今日デートだから、朝休み」

 そういってひらひら手を動かして、教室から早々と出て行った。 机の下に隠れて、必死に向井さんから逃げようとするヒカルを見下ろすぼく。

「行ってあげれば良いのに」
「やだね」
「かわいそ、向井さん」
「俺は断った。あいつが悪い。俺は悪くない」

 向井さんは宮崎くん! と何度も呼んで、ドアのところで地団太を踏んでいた。唇を尖らせている。 やっぱり、いつ見ても童顔だなあ。

「やっぱり行ってあげなよ」
「絶対行かない」




もれてゆく明日




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