アオの迷子。




 即答した場所に、早速来た。学校帰りに行ける場所にあるのだ。
 この海にぼくらは結構何度も来てたりする。 悩みがあったり、煮詰まったり、なんか物事が終わったり、始まる前だったり。 とにかくしょっちゅうここに来て、遊ぶのだ。遊びまくる。 そうしたらたいていは悩みなんか吹っ飛ぶ。

「つかなにすんの。水着もねーし。つか、もう11月だし普通に寒いだろ」
 ヒカルが頭をかきながら言う。シュンも、「どーかーん」と嫌そうな顔をする。 確かに風はもうとっくに冷たくなっていて、クラスメイトの女子たちは早速マフラーだかストールだかを首に巻いて 寒いー! と体をくっつけあって騒いでいる。

「ぼくらももう、2年生だし。これから将来の事とか、考えなくちゃでしょ?  進路希望調査? だっけ、そのプリントも配られたわけだし。 でもぼくも初めての恋が現在進行形なわけだし、難しい事は忘れて遊ぼうぜ! みたいなね。あ、写真とろ?」
 いまいち意味が分からなかったのか、2人は無表情でこっちを見てきた。しらけた目だった。 自分では青春ドラマの主人公に匹敵するほどのいい事を言ったつもりだったのに、 その2人の目にぼくはちょっとショックを受けた。

「……だからー。3人で、青春真っ盛りのぼくらを写真にとっとこ! てことだよ!」

 そう押し付けるように怒鳴ると2人は小さく笑った。 お前いつからそんなに熱い男になったんだよ、とか言いながらもこんなぼくの言う事を 聞いてくれる優しい2人が大好きだ。

「こっちこっち!」

 2人を誘導させ、砂浜の石の上に、持ってきたカメラを置いてタイマーセットする。
ぼくはすごい笑顔なのに、2人は全然ノってない。 仕方ないからやり直そうと思って、駄目駄目! と首を大きく横に振ってカメラに駆ける。すると……

 あっという間にカメラが安定してたはずの石から落ちて、がしゃんと無残な音を立てた。

「……」
 ぼくが泣きそうな顔をして振り向き、2人を見ると2人は大笑い。
 2人が笑うから、ぼくもなんだか笑えてきて。そのうちなぜかぼくは2人に押されて海にじゃぼん。 びしょ濡れのぼくは2人に水をかけて(結局2人に怒られてかけられたから逆に駄目だったけど)。

 それから木で砂浜に相合傘を書いて(ぼくと青山さん、シュンと笹川さん。 ぼくがシュンの命令でヒカルと向井さんを書こうとしたら、ヒカルがぼくを倒して、 けっきょくぼくは水に砂がついてどろどろになった)、ヒカルがケータイを取り出した。

「写真とろーぜ!」
 3人で、必死に画面に映るようにぎゅうぎゅうに押しあって。 ヒカルがケータイを上にあげて撮った写真には、ぼくは顔半分とピースサインしか写ってなかったけど (どろどろだし)十分に青春の1ページとなった(なんて、ね)。

 おまけに、ヒカルの鞄の中にあった夏に大量に買いすぎて余った花火をやった。
 ヒカルがライターを出そうとする前にシュンがチャッカマンをさりげなく渡した時、 うわあ不良だ、とぼくが呟いた言葉を聞き逃さなかったシュンに されたキックはすっごい痛かった。いやだって、普通そんなの常備してないでしょ。

 大きめの手持ち花火にライターで火をつけると、色鮮やかに火花が散ってゆく。 ヒカルが馬鹿みたいに両手で花火を持って走りだしたり、シュンが花火ではーとを空に描いて ナナへの愛だとか嬉しそうに言ったり、そんなはしゃぐ2人を見ながらぼくは大爆笑した。 赤だとか緑だとかの火花が眩しいぐらいに輝いた後、真っ白い煙がひゅうひゅうと上へ上へと向かってゆく。
 ぼくが花火の火を消してるうちに2人が鼠花火をやりはじめていて、 しゅるしゅると地面をこする音に気付いて振り向くとそれは突然ぱあん、と大きな音をたてた。 驚いて腰を抜かすぼくを2人はお腹を抱えて笑って、冷たいひんやりとした秋の空気が通り過ぎて行った時、 突然ぼくの胸には切なさが込み上げてきた。




青いのはじまりだ!




←BACK                                                 NEXT→