浮気をしました。






 次の日の放課後だった。今日は先輩に会えないな……と、溜め息を零す。 それに今日は、麻川さんと一緒に帰るんだっけ。……面倒くさがってる? あたしって、嫌なやつ。

「あ、麻川さん」
 皆がぞろぞろと帰り始める。麻川さんに声をかけると、笑顔で振り向いてくれた。

「ごめんねっ、なんか迷惑かけちゃって」
「え、いいよ全然!」
 慌てるあたしを上品に、優しく笑う麻川さん。

「えー……ってことで、今日の放課後は宜しくお願い致します!」
「こちらこそ!」

 びしっと敬礼してくる麻川さんに、笑いながらあたしも返す。
 靴を履きながら適当に話す。だけど、それはいつも莉子と話してるような全く下らない話。 麻川さんは、なにを話したいのだろうか。ほんとの話は、なんなのだろうか。 横目でちらちら見ながら思う。しばらくして、話が一旦途切れ、沈黙が訪れる。

「……先輩ね」

 麻川さんが小さな声で呟く。先輩という言葉に驚き、あたしの体はびくっと反応する。

「あ、彼氏なんだけど。……気になることあったって、前言ってたでしょ……? あ、昨日かな」
 遠慮がちな麻川さんの言葉に頷く。

「浮気、」
 どくん、と胸が痛む。



「浮気、してる……みたい、」



 乾ききった笑いを零しながら麻川さんがいった。 自分の喉がからからなのに気付いた。明らかにあたし、動揺してる。 いやだ、どういう反応が"普通"なのかが分からない。

「莉子さ、あたしの彼のことすごく尊敬してるから相談できなくて。 千葉さんだったらなんか、聞いてくれるかな? みたいな……」

 麻川さんは苦笑いして言った。横顔はとても寂しそうだった。
 あたしは麻川さんの顔がまともに見れなかった。だって、だって、だって、だって。
 唇が震えていた。あたしはがちがちと震える歯を止めようと必死だ。

「ご、ごめんね変な想像で押し付けちゃって…………千葉、さん?」

 麻川さんはあたしの異変に気付いたのか、うつむくあたしを覗き込んだ。 麻川さんはとても驚いた顔をしていた。一瞬疑問を抱いたが、すぐに分かった。


 あたしの頬には、涙があった。……やだ、なにないてるの――!
 あたしはとっさにそれを拭った。いつの間にか溢れていた、それを。そして笑う。

「なんか目痒くて……ごめんね、なんか話途切れさしちゃって」
「……ううん、」

 麻川さんは弱く言った。あまり納得してないようだった。やだ、なに泣いてるんだよ。 っていうか、今のタイミングあたしが泣く場面じゃないじゃん。 麻川さんの方がきっともっと辛いのに。また、沈黙が訪れる。きっとあたしが泣いたからだ。

「え、えと……それで、浮気って、なんで分かった、の?」

 恐る恐る聞く。浮気された彼女と、その彼氏と浮気してる女。 その2人が浮気について話してる。……なんて変な話だろう。


「抱き合ってた」




あふれ出るの理由は、




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