「……明日はすぐ帰って家でおとなしく勉強しとくもん」
「あっそ」 どうでもいい、とでも言うように光が言うからもう1度耳をつねってやった。あたしは立ち上がり、歩く。 「いってーなボケ」 光の声が後ろから聞こえた。なんとなく、なんとなくだけど、寒さがマシになった気がする。 家に帰ればすぐに月曜日のことを考えている。馬鹿みたいに、先輩のことを。 ふと先輩とキスした瞬間が脳裏を過ぎる。……キス、……したんだ。唇に手を当てる。 そっと、確かめるように。あっけなかったキスの瞬間。だけど、確かに。あたしはベッドに寝転がる。 先輩に、昨日より、ずっと近づいてる気がする。勘違い? ……それでも、。先輩が好き。 あたしを抱きしめる大きな手も、とびっきり優しいぬくもりも、暖かい言葉も、 あたしのものにならなくたっていいよ、ただ、先輩を見れたら。それでいいって今のあたしは言い切れるんだ。 先輩と同じ大学、入りたいな。そのためには。……うん、勉強しよっ! あたしはにやける顔を抑えきれないまま起き上がり、机に向かった。 次の日の放課後だった。今日は先輩に会えないな……と、溜め息を零す。 それに今日は、麻川さんと一緒に帰るんだっけ。……面倒くさがってる? あたしって、嫌なやつ。 「あ、麻川さん」 皆がぞろぞろと帰り始める。麻川さんに声をかけると、笑顔で振り向いてくれた。 「ごめんねっ、なんか迷惑かけちゃって」 「え、いいよ全然!」 慌てるあたしを上品に、優しく笑う麻川さん。 「えー……ってことで、今日の放課後は宜しくお願い致します!」 「こちらこそ!」 びしっと敬礼してくる麻川さんに、笑いながらあたしも返す。 昨日より、今日より、明日より、きっと。 ←BACK NEXT→ |