「さむ……」 思わず声が出てしまう。なんだか1人の道はとても寂しくて。 先輩が"寒いね"って返してくれるかな、とか妄想しちゃったりして。だけどもう、光がいるはず。 「あ、やっぱりいた」 「あ? なんか言った?」 「ううん別に」 光は公園のベンチに座っていた。足元にはサッカーボールが転がっている。 「なにやってたの? 1人でサッカー?」 笑いながら、からかうように言うと光は口を尖らせてアホか、と呟いた。 「小学生と遊んでた、サッカーして」 ……変なの。高校生なのに。受験の時期なのに。確かに光には小学生の友達がいるらしいけど (ちなみに1人とかそんなレベルではない。結構大人数を相手にし、対等に戦っているらしい)。 「勉強しないでいいわけ?」 「おれっち天才だもん」 「うわウザ」 光の隣に座る。光は全く勉強してる素振りを見せないくせに、なんでか頭が良い。そういうのも含めてほんと鬱陶しい。 「そっちこそ勉強しなくて良いの。馬鹿なくせに」 光がこっちを見て言った。"馬鹿なくせに"という言葉に反応するけれど、言い返せない自分が悔しい。 「毎日毎日誰かん家行ってるし」 「うるさいなー関係ないじゃん。ってか誰かさんみたいに小学生と遊んでないし」 言い返すけれど光はあまり聞いてない様子だった。サッカーボールを足で転がしている。 そんな光にイラッと来て、あたしは光の耳をつねった。 「いってーなアホ。つーかほんとのこと言っただけなのに」 「うわ超ムカつく」 あたしは光の耳から手を離す。 「今度勉強教えてあげよっか」 「嫌です」 「遠慮すんなよ」 「いや遠慮しておきますから」 「いやいや」 「いやあの、間に合ってますんで」 この時の光の表情をあたしは知らなかった。笑っていたけれど、きっと、そんなんじゃ無かったんだ。 あたしは、この時の光の言葉の意味を知らなかった。 「……明日はすぐ帰って家でおとなしく勉強しとくもん」 「あっそ」 どうでもいい、とでも言うように光が言うからもう1度耳をつねってやった。あたしは立ち上がり、歩く。 「いってーなボケ」 光の声が後ろから聞こえた。なんとなく、なんとなくだけど、寒さがマシになった気がする。 家に帰ればすぐに月曜日のことを考えている。馬鹿みたいに、先輩のことを。 ふと先輩とキスした瞬間が脳裏を過ぎる。……キス、……したんだ。唇に手を当てる。 そっと、確かめるように。あっけなかったキスの瞬間。だけど、確かに。あたしはベッドに寝転がる。 先輩に、昨日より、ずっと近づいてる気がする。勘違い? ……それでも、。先輩が好き。 あたしを抱きしめる大きな手も、とびっきり優しいぬくもりも、暖かい言葉も、 あたしのものにならなくたっていいよ、ただ、先輩を見れたら。それでいいって今のあたしは言い切れるんだ。 先輩と同じ大学、入りたいな。そのためには。……うん、勉強しよっ! あたしはにやける顔を抑えきれないまま起き上がり、机に向かった。 変なやつ、あんたってほんとに。 ←BACK NEXT→ |