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通信ボタンを押すのが震えたその作業も15分してようやく最後のボタンが押せて、青山さんに電話が繋がった。 ぷるるる、とコールが鳴る度にぼくの胸はどくんどくんと酷く悲鳴をあげた。 「はい、青山です」 青山さんのあの可愛らしい小さな声が聞こえて、笑顔が思い浮かんで、一気に胸の奥が熱くなった。 「あの、えっと、井上と申します!」 「はい……?」 「あの、お昼、ぶつかった、」 そこまでいうと青山さんは分かったのか、あ! と少し大きな声を出した。 「な、なにかあったのでしょうか……ごめんな」 「いやそうじゃなくて、その」 早口で謝る青山さんの言葉を遮り、手に持ったキーホルダーをちらりと見る。 「キーホルダー、落としてません?」 「ど、どんなのでしょうか」 「ディズニーの……」 最後まで言葉をいうかいわないかで、青山さんがまた叫んだ。 それから、「ちょっと確認してきます!」と直後にどたどた駆ける音が聞こえた。 開けていた窓から入ってきた虫を潰していたら用事が済んだのか青山さんがもしもし、と小さくいった。 「……それ、多分わたしのです」 「あ、そう……ですよね」 「ありがとうございます!」 「じゃあ、いつ、渡しましょうか?」 「えっと、その、いつでも、取りに行きます!」 そんな焦るほど大切なものなの? こんな青い変なキャラクターが? ……全然可愛いと思えないんだけどなあ。 不思議がるぼくのテンションとは反比例して、青山さんの声は上ずっていた。 「じゃあ……明後日でいいですか?」 「全然いいです、本当にありがとうございます!」 「じゃあ……あのぶつかった場所で、昼の12時ぐらいに」 青山さんがどこらへんに住んでるのかなんて分からなかったから、 待ち合わせ場所が思いつかなくて適当にそういった。 いった後に、なんだか全然地形を知らない人みたいって思われたかななんて ちょっとだけ思った。 「はい、ありがとうございます」 電話を切っても、青山さんの声が耳から離れなくて、青山さんの笑顔が頭から離れなくて。 こんなきっかけをくれたキーホルダーにありがと、と呟いた。 部屋のベッドの上でぼくはこの時、キーホルダーはぼくと青山さんを巡り合わせてくれた、 恋のキューピッド役、幸運の鍵、幸せの種、そう思ってた。ほんとは、ほんとはそんなんじゃ全然無かったのに。 しあわせは、きっと偶然なんかじゃない! ←BACK NEXT→ |