アオの迷子。





「え、まじで! やったじゃん! え、誰?」
「ふふふふふ……それがだよ、ヒカルくん」
 仲よく話すシュンとヒカル。その横で、ぼくは黙ってそれを見ていた。入れなかったのもあるけど。

「学年1の美女といわれる……」
「え、も、もしや……! 笹川ナナですか師匠!」
「そうなのだよ、ふはははは!」
 悪ノリを始める2人。目を大きく開いて驚くヒカルと、満足げに笑うシュン。 すこしだけ冷たくなってきた風が窓から流れてきて、ぼくの頬をくすぐった。


「そりゃーすごい……」

 驚いて力をなくしたように声を小さくするヒカル。
 なんで? とか声は聞こえてくるけど、ぜんぶ右耳から左耳へ流れてゆく。 シュンは背もたれを前にしていすに座り、ヒカルはシュンの机に頬杖をついて向き合って話していた。

 恋愛? シュンが? そんな馬鹿な。だってぼくたちいつも3人でいて、恋愛なんて。いつの間に。 ぼくの頭に、シュンの今までの行動が思い浮かぶ。
 ……そういえば、そういえばなんだけど。シュンはこの中で一番モテてたかもしれない。
 面白いし話上手だし、頭は悪いけど運動神経いいし、恋愛には鈍感だし軽いけど ちょっかいかける男子はいいって女子がいってたのも聞いたことあるし、 (ちなみにシュンはちょっかいかける男子の中に入っている)でもときどき優しいんだって、 女子がきゃーきゃーいっていた。中学生の頃ラブレターとかチョコを貰ったところをぼくとヒカルは 目の前で見てしまった。
 ……なるほど、それはしかたない……。
 自分の中である程度結論を出す。だけど、シュンが今までそれを隠してたなんて。

 一種の裏切り行為だ。


「どしたの? ハルキ」
 素直に喜べないぼくは、最低なやつだ。だけど。だって、だってなんか、 いきなりシュンが遠くに行ってしまった気がしたんだ。

「ううん、なんでもない……ちょっと、体調悪い、かも」
「そっか、大丈夫かよ」
「うん……」

 高校2年生なのに、いまだ好きな人すらできたことないぼくが変なのかな。 みんな恋したとかいろいろいってるけど、好きってどういう気もちなのか、それが楽しいのか、 ぼくはよくわからない。グラビアアイドルにときめくぐらいだ。
 ……それでも、だって。…… なんだよ、"いったっけ"って。そんなもんかよ。 じゃあ今まで秘密にしてたってこと? お互い秘密はなしっていってきたじゃんか。 いつから? いつからなの? ぼくはお母さんの財布からお金を、200円おまけつきのチョコを 買うために盗んだ時以来、秘密とか隠しごとはひとつもしてないのに。してないの、に。 うまく笑えないよ。怖いよ。放っていかないでよ。放っていかないでよ、ねえ。 根拠もない不安とかいらいらとかが胸の中で黒くなってぐるぐる渦をまいた。




切り、なんて馬鹿らしい


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